【空の写真家】 雲になった友「羽部恒雄」
綺麗な雲を見ると、決まって思い出す人がいる。
世界中の空を追いかけて、ついには雲になってしまった、そんな男だ。
彼とは、今はもう無くなってしまった鈴屋の青山ベルコモンズ本社で、営業本部の販売・販促ディレクターとして一緒に仕事をした。
あの頃のファッション業界には、個性の塊みたいな変人がわんさかいて、その中でも彼は抜群に自由だった。
退職してからは、むしろ関係が深まった。同じ独立組として肩を並べるようになり、気づけば“心のどこかを預けている友人”になっていた。
ある日、突然電話が鳴る。
「今週末、オーストラリアに行くんだ。出発前に日本酒を一杯やりたい」
理由を聞けば、命の危険もある砂漠に一ヵ月こもって“雲を撮る”のだという。
普通なら心配が先に立つのに、彼の声には不思議な説得力があって、いつも「気をつけてな」としか言えなかった。
彼は、いつだって雲を追いかけていた。
そして今は、ほんとうに空のどこかに溶け込んでしまった気がする。
だからだろう。
綺麗な雲を見上げるたびに、僕はふっと彼のことを思い出してしまう。











