【ハッピー笑顔塾】 何が正義なのか?
NHKの朝ドラ『あんぱん』が、いよいよ最終回を迎えようとしています。
アンパンマンの作者・やなせたかしさんと、妻の暢(のぶ)さんをモデルにした物語。戦前から戦後の混乱期を生き抜いた夫婦の姿に、毎朝つい引き込まれてしまいました。
アンパンマンは誰もが知っているキャラクターですが、そこに哲学的な深い意味があることは、正直、僕も知りませんでした。
「何のために生まれて、何をして生きるのか」
「ほんとうの正義とは何か」
ドラマを観ながら、何度も心に響く問いかけを受けました。
子どもの頃、僕が憧れたヒーローは鉄腕アトムや鉄人28号。
「正義は必ず勝つ!」強くてかっこいい存在に夢中になったものです。
だから、どこかはっきりしないアンパンマンには、正直、違和感を持っていました。
ところが調べてみると、その理念は実に深いものでした。
やなせさんは戦中の飢えの体験から、こう考えたといいます。
「正義とはまず、飢えている人に食べ物を与えること」
アンパンマンは自分の顔を差し出し、相手を救います。自分が弱くなると分かっていても、それを惜しまない。そこには「自己犠牲の精神」がありました。
やなせさんは言います。
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そのためにかならず自分も深く傷つくものです」
この言葉を知ったとき、僕の中でアンパンマンは“違和感のある存在”から“親しみのある存在”に変わっていきました。
思えば、日本人の気質は縄文の時代から培われてきたのかもしれません。
一万五千年ものあいだ大きな戦争がなく、大自然に抱かれながら、共に生きてきた人々。そうした「あるがままを受け入れ、和を尊ぶ心」が、バトンのように今に伝わっているのだと思います。
やなせさんがアンパンマンを通して伝えたかったのは、単なる戦争体験だけではなく、日本神話の教えや聖徳太子の「和を以て貴し」、親鸞の「自然法爾」、最澄の「一隅を照らす」──そんな日本人が大切にしてきた価値観そのものだったのでしょう。
そして思うのです。
「お腹を満たすこと」が正義ならば、「心を満たすこと」もまた正義なのではないか、と。
人は誰しも、悲しいときや寂しいときがあります。そんなとき、誰かの笑顔に救われる。小さな笑顔ひとつで、心の飢えが癒されることがある。
笑顔の正義。
それは、相手を否定せず、あるがままを受け入れて、共に生きようとする姿勢。
アンパンマンが顔を差し出すように、私たちは自分の笑顔を差し出すことで、周りの人の心を温めることができるのです。